死後事務委任契約を検討されている方の多くは、子供たちがいないことで、自分の死後の後始末を頼める人がいないと考えている方が多いように思います。
また、実際にそのような方からの相談が多いように感じます。
そのような皆さんの一つ参考になる事例を紹介したいと思います。
80歳代のご夫婦との契約事例です。
出会いは、社会福祉協議会主催の終活相談会。夫の方がひとりでやってこられました。
自分の高齢となり、体力・気力ともに衰えを感じることが多くなった。これからの心配は、「自分が死亡した時の妻のこと。子どもがいないから、自分の死後の面倒を妻一人が行わねばならない。妻も高齢であり、一人では無理だろう。自分は、兄弟姉妹がいるが、ずっと連絡を取っていないし、過去の事で思い出したくないこともあるので、連絡も取りたくもない。血族に頼るよりも、第三者に頼む方が良いと考えている」とのことでした。
日本人の平均寿命を考えると、女性の方が男性よりも長生きですから、相談者の奥様が自分よりも長生きするだろうと考えることは、普通のことのように思われます。だとすると、妻が夫の死後の葬儀・供養・その他の手続きを行っていくわけですから、死後事務委任契約は必要性がないと言えます。仮に、夫の死亡時、妻が何らかの理由で、心身に問題を抱えていたとしても、妻の親族に協力してもらえれば良いわけです。
この場合に、相談者が心配しておいた方が良いことは、死後事務委任よりも遺産相続です。夫の遺言がないと妻は、夫の兄弟姉妹と相続手続きを行っていかねばなりません。この相談者の場合は、自分の兄弟姉妹と連絡を取っていないわけですから、当然、妻の仲良くしているわけでもない。また、夫婦でこれまで暮らしてきた財産を妻が全部受けとるのが当たり前なのですが、法律上は、遺産分割をする際に兄弟姉妹が登場してくることになっているので、面倒だしストレスの溜まる話です。こんなストレスを感じさせないように、夫は考えておくべきでしょうから、遺言書を作って全部妻に相続させるとしておけばことの必要性があることを説明しました。相談者のこの点は納得してもらいました。ただ、それでも、自分の死後のことで、妻の親族の手を煩わせることは、嫌なので、死後事務委任を頼みたいということでした。
死後事務委任契約は、以前にも記しましたが、その支払方法は、大きく分けて二つあります。一つは、「前払い方式」で契約締結時に、将来の死後事務のための費用を先に払っておく方法。二つ目は、「後払い方式」で、今契約をするけれど、費用支払いは、事務完了後に遺産から支払方法です。後払い方式の場合には、契約依頼者はその時点で死亡しているので、遺産から受託者に支払う人を別に選定しておかなければなりません。この相談者の場合は、妻がいるので、支払にも問題がありませんので、死後事務委任の内容を取り決め、奥様にも、この話し合いに入ってもらい、契約を行う方向で話を進めておりました。ただ一つだけ懸念事項は、夫で相談者よりも、奥様が先に亡くなった場合はどうするかということです。
この点を考慮すると、奥様の以外に相続してもらう人(自分の兄弟姉妹以外)を指定おくことが必要になります。相談者からは、妻の親族(相談者からみると姻族)とは仲良くしているので、自分の血族よりも、そっちの方が良いけれど、相手がどう思うからわからないということでしたので、一度相談してもらうことにしました。結果として、相談者の後始末についても協力できるという返事をもらったそうで、改めて遺言書の内容を調整し、「夫が死んだ場合の相続は奥様。 奥様が夫より先に亡くなってる場合の相続は、姻族の方。死後事務委任契約を締結しているので、自分が亡くなった時には、死後事務委任契約先に連絡して欲しい」という内容の遺言書を作成し、死後事務委任契約を締結しました。
死後事務を誰に頼るかを検討する場合には、親族(血族と姻族)の広く考えて、頼れそうな人を探してみるのも一つの手だと思います。
最初から、赤の他人に頼り、前払い方式で今ある財産の一部を取崩していくよりも、残った財産で出来る限りのことを死後事務で行う。もしからすると、自分の遺産では不足する場合でも、頼れる人がいれば、負担をしてくれるかもしれません。
こっちの方が良い方法だと思います。